映画レビュー「ALONE」ネタバレあり
2016年公開ということで、6年前の映画「ALONE」をアマプラで無料視聴した感想。
まずこの映画のテーマ、メッセージとして、自分が思うところは、
「人生において、犠牲を覚悟してでも前に進まなければいけないときがある。地雷のような思わぬトラブルに見舞われることもある。それでも一歩踏み出そう」
というようなところだと思った。自分の文章力のせいで、うまく表現できていないかもしれないが、割とシンプルに受け取るとそんなところだろうなと。
それを理解したうえでだ。この映画は、戦争映画でもなければ、サバイバル映画でもないと理解したうえでだ。酷評したい。
アマプラで視聴したので、レビューもざっと目を通したが、平均3点で、賛否両論といった感じだ。あるものはこの映画のメッセージ性を評価し、あるものはこの映画の突っ込みどころを批評する。
前述したように、メッセージがシンプルでわかりやすいために、それを受け取った者は評価する。んだと思う。
しかし自分としては、このメッセージのために、これ? という感想を抱いてしまう。
これだったら、多くの人が意味不明と酷評する、シャマランのハプニングのような、そもそも何が言いたいのかよくわからない映画のほうが、何を意図してこの映画を作ったのか? と考察する楽しみがあっていい。
アマゾンレビューの中に、俺はこの映画の本質を理解しているぜ! と調子に乗っているようなものが散見されるのだが、そんなもんこっちもわかっていて、そのうえで批判したいのである。
要するに、突っ込みどころが多すぎて白けるのだ。
自分は兵士だったことはないし、地雷を踏んだ経験もないし、なにかしらの極限状態に陥ったこともない。
それでも素人目に見て、不自然だと思う部分が多いのである。
まず、主人公のマイクは、暗殺任務に来ているが、任務放棄する。何をしにそこに来たんだ。ターゲットの目の前で結婚式が行われていたから躊躇したのだが、それで命令を遂行できないならなんで兵士になったんだよ。
任務失敗したマイクと相棒のトミーは、安全な回収ポイントに向かうために遮蔽物がほとんどない砂漠を呑気に歩く。
地雷原かもしれない地帯を、トミーは謎の自信でハッタリだと断じてずかずか歩く。ここが一番意味不明だった。ハッタリの可能性ももちろんあるが、わざわざ、油断して歩く必要はない。水もほとんどないから、地雷原を突っ切ってでも安全地帯に向かう必要があると判断するのはわかるが、もう少し慎重になるのが普通だと思う。もし実際の現役の兵士がこれを観たとしたら、どう思うのかと気になった。
案の定、トミーは地雷を踏んで吹っ飛ぶ。つまりは、映画の進行の都合上、トミーは間抜けでバカである必要があったわけで、素人目で見ても、兵士にあるまじき行動をしたというわけだ。
地雷で両足を失ったトミー。めちゃくちゃ痛いだろうし、自分の足がないことに動揺するのもわかる。自分はそういう経験がないので想像だが、わかる。だが、さっさと拳銃自殺してしまうのはいただけない。
もとより危険な任務でそこにいるのではないのかね。せめてまだ無傷の相棒マイクのために、できることをするものではないかね。無線は君が持ってるのだから、せめてそれを渡すくらいのことはできないかね。
トミーが吹っ飛んだとほぼ同時に、地雷を踏んでしまったマイクは、トミーを手当するために、一か八かその地雷が古くて作動しない可能性に賭けて歩こうとした。それをトミーは制止し、自殺した。
いやそこで制止する程度には頭が回ってるなら、相棒のためにもう少し頑張れよ。無線を持って這うくらいはできるだろうし、マイクのそばまで行ければ、マイクは足が離せない状況としてもトミーの止血を試みるくらいはできたかもしれない。どのみち結果的にトミーの死は免れなかったろうけど、トミー諦めるのはや! と思わざるを得なかった。
トミーは無線を渡してくれなかったが、どうにか工夫して無線を手にするマイク。これで救援を呼べる! と思ったが、無線相手の上官と思しき男はどうにも冷たいし、要領を得ない。52時間後に部隊が通りがかるからそれまで待ってね、くらいしか言わない。当然、マイクはこのままそんなに待てるわけがないと反論するが、いざとなったら足は失うけど命は助かるよ、みたいなことを言われる。あと、7%くらいは地雷は作動しないとか言う。
いやいや、実際にトミーも即死はしなかったけど、砂漠でそうなったらほぼ死と同義だし、7%ってスロカス的には約1/14てことでそんなに悪くないと思うけど、命がかかった7%は話が全然違う。
だいたい、もう少し申し訳なさそうにというか、元気づけるような言葉をかけるものじゃないのか? マイクも、誰も置き去りにしないのが米軍じゃないのか? と苦言を呈しているのだが、救出には時間がかかるし、困難であるが、なんとか頑張ってくれ、見捨てはしない、というような言葉をかけるものじゃないのか? 本心はたかが任務失敗した兵士1名、さっさと死んでくれたほうがいいと思っていたとしても。
52時間という時間にほとんど絶望するマイク。拳銃を自分のこめかみにあてるシーンもあるが、それでも思いとどまり救援を待ち続ける。その間、地雷をどうにかしようとすることは一切ない。
いやまあ、踏んでしまった地雷を、踏んだ本人がどうにかできるものなのかどうか、俺は知らない。普通の兵士なら、そもそも自分で除去しようとするものではないのかもしれない。それでも、このままじゃほとんど助かりそうもないという状況なら、ちょっとくらいはどうにかしようとするものではないだろうか。
ここでいきなりネタバレだが、地雷を踏んでいたと思ったものは、実はただのブリキ缶だったのである。
地雷なんて見たことないし、当然地雷を埋めたことがあるなんてことあるわけないので、知識としてはwikiで知り得る程度でしかないが、平たい円形の真ん中にスイッチがあって、それを踏むと爆発するものであるらしい。地雷の種類はすごく色々あるらしくて、踏んですぐ爆発するタイプが主流らしいが、作中のように踏んで離して爆発するタイプもあるらしい。
なんにせよ、どうせこのまま死ぬならと、砂に埋まった地雷を確認しようとする行動くらいはあっていいと思うのである。そうすれば、結果的に、これ地雷じゃなくね? と気付けたかもしれないのだ。
しかし進行の都合上、映画の見えざる力は、主人公マイクにそんなことをさせるわけにいかないのであった。
こんな具合に突っ込みどころだらけであるからして、わかりやすく映画にメッセージが盛り込まれていたとしても、だから何となってしまうのである。
そのメッセージなら地雷じゃなくてよくねとも思うし、地雷を使うならもう少しうまくやれたよねとも。
冒頭の任務失敗のシーンも、本当はできたはずの任務をマイクが自ら放棄しているのだが、同じような結婚式のシーンを使うとして、例えば、
「今だ、撃て」
トミーは言うが、マイクは新郎新婦を見て一瞬躊躇する。
「どうしたマイク。撃て」
その言葉に我に返り、照準をつけなおすマイク。
「ああわかってる」
しかしその間に、ターゲットは参列客の後ろに隠れてしまった。
「くそっ狙いがつけられない」
「落ち着け。次の機会を待つ」
そうしている間に、周囲を警戒していた敵兵に、スコープの反射光を見られてしまった。
という流れにすれば、さほど違和感はなかったのだ。作中のその後、マイクは父親のDVや、自分の彼女と喧嘩している葛藤が回想シーンによって描かれるから、その点も含めて自然になったはずだ。
進行の都合上、現役兵士にしては極度のバカにさせられたトミーも、もう少し不可抗力的に地雷を踏んでしまう流れにできたはずだ。
トミーが死んでしまうのだって、なにも自殺にせずに、失血死や衰弱死でもよかったはずだ。
そういう簡単な突っ込みどころのせいで白けるし、それはともかくとして映画のメッセージに目を向けても、あまりにシンプルで単純なせいで、そのメッセージのために俺は何を見せられていたんだという気分になる。
正直、自分は映画をそこまで批判する人間ではない。上にちょっと挙げた、シャマランのハプニングだって、酷評の嵐の中で、シャマランはなにを考えてこれを作ったのか? と考察する。それ以外だって、なにかしら作り手の意図があるはずだと思うし、Z級はZ級で、予算とか技術とか色々鑑みたうえで、これはこれでと思うことがほとんだ。
しかしながら、このALONEだけは、はっきり言って、ひどいと言わざるを得ない。
ワンシチュエーションもののスリラーは他に秀作があるだけに余計に。
アマゾンレビューのどれだったかに、この映画を評価する人を蔑視する、と辛辣な意見を述べている人がいたが、心から同意する。こんな薄っぺらい映画で☆5をつけるようなおめでたい頭脳と心をお持ちなら、子供向けアニメくらいがお似合いだと言いたい。