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小説を書いた

前書き

 

 突然だが小説を書いたので公開する。8月12日現在未完。

 正直、別にうまく書けているなどとは思っていないし、あれこれと言い訳したいことは多いが、ここで長々とそれを書くのはやめておく。

 ただ前情報として知っておいてほしいのは、マガポケというアプリで、

「追放する側の物語 仲間を追放したらパーティーが弱体化したけど、世界一を目指します。」

 という漫画を読んで、個人的に、もっとああしてこうしたほうが、と色々思うところがあったので、そのああしてこうしてを取り入れつつ、登場人物やストーリー進行はおおまかに拝借し(パクリ)ながら書いてみたということだ。

 

 

追放する側の物語

 

第一章

 

「サンシャインの皆さん、シルバーランク昇格おめでとうございます!」

 ギルドの受付嬢はにこやかにそう言ったが、当の本人たちの表情はことのほか暗い。

「(いや空気悪っ)」

 普通、ランク昇格時はたいていどのパーティも笑顔で明るい表情をしているものだから、受付嬢は困惑した。

「あ、これが昇格の証明書と、シルバーランクのリーダーバッジ、そして皆さんは個人ランクもシルバーに昇格となったので、新たにドッグタグも配布されます」

 困惑しつつ業務をこなす。それらを、サンシャインのリーダー、アルテナは、ややひきつった笑顔を見せながら受け取った。

「ありがとう。これからもよろしく頼む。よし、じゃあ行こうみんな」

 アルテナは踵を返し、3人のパーティメンバーを引き連れてギルドを後にした。途中、

「サンシャインの連中だぜ。シルバー昇格か」

「噂通りスピード昇格だな。やるなあ」

「まだ依頼成功率100%なんだって」

「この分だとゴールドもすぐいっちまいそうだな」

 周囲の冒険者たちが、口々にそんなことを言っていた。それらは本人たちにも聞こえていたが、やはりどこか表情は暗く、不満気だ。

 サンシャインは、リーダーを女剣士アルテナとし、付与魔術師エント、攻撃魔術師ミリアム、剣士ダールの4名で構成された冒険者パーティだ。

 アルテナとエントの2人で始まったパーティで、当初はパーティ名はなかった。2人のときも新人としては目を引く活躍で、ブロンズランクの討伐依頼を中心に成功させていった。

 後にミリアム、ダールの順に加入し、4人になったところで、サンシャインというパーティ名をつけた。考案したのは年長者のダールだった。

 前衛にアルテナ、中衛兼前衛のオールラウンダーのダール、後衛に魔法攻撃をするミリアムと、付与魔術で全体の底上げをするエントを配し、サンシャインは次々に依頼をこなし、新進気鋭の有望若手パーティとして名を馳せていった。

 特にアルテナは、華麗な剣技と容姿の端麗さ、愛用している銀の甲冑から、

「銀麗のアルテナ」

 と二つ名が通るほどの注目を浴びている。

 そしてその新進気鋭のサンシャインは、先だってのクエスト成功により、これまでの功績が認められ、シルバーランク昇格となり、個人冒険者ランクも揃ってシルバー昇格となったのだった。

 

 ギルドを出たサンシャイン一行。そこでエントはアルテナに話しかけた。さっきまでとは打って変わって明るい表情だ。

「やったねアルテナ! ついにシルバーランク! このままゴールドランクまで駆け上がっちゃおう!」

「あ、ああ、そうだな」

 アルテナは少しばかり引き気味に応える。

「僕とアルテナがいれば大丈夫! 僕の付与魔術でアルテナを強化すればどんな敵も蹴散らせる! 今までも、僕ら二人、の力でシルバーになったわけだからね!」

 わざとらしく、2人で、というところを強調して言うエント。

「ちっ」

 それを聞いていたミリアムは聞こえるように舌打ちをした。あからさまにイライラして、それを隠す気もないようだ。

 ダールは呆れた顔で、小さくため息をついている。

「よしみんな。今日はこれから、シルバーにあがったうえで、今後どうするかについて会議をしよう」

 気を取り直して、というふうにアルテナは言った。

「今度どうするって言ったって、僕とアルテナのコンビでクエストを成功させていって、ゴールド、プラチナ、そしてダイヤ! 今までとやることは同じでしょ?」

 エントはあくまで2人を無視するように言い、ミリアムはイラつき、ダールは呆れている。

「もちろんまだ通過点に過ぎないと思っているが、油断をしていい理由にはならないからな。クエスト難度があがるのは間違いないのだから、ここでひとつ話し合いをしておきたいんだ」

 アルテナは言った。エントはふうんという表情で、

「シルバーくらい僕とアルテナで楽勝だと思うけどね。まあリーダーには従うよ!」

 と言った。

「あ、ああ。それじゃあみんな、いつもの宿に行こう。着替えたら、私とミリアムの部屋で会議だ」

 一行は宿へ向かった。

 前にアルテナとエントが並び、後ろにミリアムとダールが並んで進んでいく。2組の距離はいささか離れている。エントは一方的にアルテナに話しかけ、アルテナは作り笑いをしながら応答する。それをミリアムがイラつきながら、ダールは呆れながら見ている。それが最近のサンシャインの日常だった。

 

 宿に着いた一行は、アルテナとミリアム、エントとダールの男女に分かれて部屋に入った。

 宿はギルド提携で、冒険者は格安で宿泊できるため、実質貸し部屋として利用する冒険者は多い。サンシャイン一行もそれだった。資金に余裕があれば4人それぞれ個室にすることもできるのだが、大活躍中とはいえ昨日までブロンズだった若いパーティにそこまでの余裕はなかった。が、性別関係なくパーティ全員同じ部屋、というパーティも少なくない中で、最低限男女別にすることができているのは実力パーティの証でもあった。

 それぞれの部屋で冒険用装備を解き、私服に着替える。ほどなくしてエントとダールはアルテナら女子の部屋の戸をノックした。アルテナが戸を開け、2人を入れる。

「さ、座ってくれ」

 部屋には丸テーブルと、それを囲むように椅子が4つ。ミリアムはすでにその1つに座っている。4人が席に着いたところでアルテナが口を開く。

「よし。ではみんな、改めて、シルバーランク昇格おめでとう。みんなの力、協力があっての昇格だ。ありがとう」

 着席のまま軽く頭を下げるアルテナ。

「ここまで順調に来られてよかった。しかしまだゴールではない。前から言っているように、最終目標は世界一の冒険者だ。さしあたり、次のゴールドランクに向けてこれからやっていくことになる。ランクがあがれば当然、クエスト難度も戦う敵のレベルもあがってくる」

 リーダーらしく話をするアルテナ。

「そこで、今日はゴールドランクに向けて、今後どうしていくかの話し合いをしたいわけだが…」

 アルテナはここでいったん言葉を切った。3人の顔を順番に1人ずつ見つめる。目を閉じ、ふっと息を吐いた。

「エント」

 目を開けてアルテナは言った。

「ん? なんだい?」

「前から何度か言っていたことだが、2人に対する態度を改めてほしい」

 アルテナのその言葉に、声をかけられてすこし明るい顔だったのが、一気に不貞腐れたような顔に変わった。

「またその話…」

「そうしてもらえないなら、悪いがパーティを抜けてもらう」

 エントの言葉を遮りつつ、アルテナは言った。エントの目を見つめ、その顔は毅然としている。エントはやや気圧されるような心持になった。同時に、アルテナの言葉に、

「は?」

 と反応した。困惑と怒りといら立ちが混ざったような顔だ。

「前から言っているが、お前の日頃の2人に対する態度は問題だ。2人からグチ…相談も受けている。これからいっそう難しいクエストに挑んでいく上で、パーティ内の不和は…」

「僕にパーティを抜けろって…?」

 今度はエントがアルテナの言葉を遮った。さっきより怒りの顔が強く出ているだろうか。目はどこを見るともなく、虚空を泳ぎ見ているような感じだ。

「ああ…態度を改めてくれないなら、な。……言っておくが、なにも抜けてほしいと言ってるわけじゃない。これからは今までより厳しい戦いになっていくだろう。そのときに、パーティ内に不和があって連携が取れなかったりするのは困るんだ。だから……なにも、いつもニコニコ仲良くなんてことじゃなくてもいい。ただ、邪険にしたり嫌味を言ったりというような、相手を深いにする言動や態度は慎んでほしいんだ」

 アルテナはエントを見ながら、あくまで毅然と振舞って言ったが、胸に苦しさを覚えていた。自分を慕っているとわかっている幼馴染にきつく注意をするというのは、楽なものではい。

 言われたエントは、変わらずどこを見るでもない目つきと顔だ。しかし、

「ふっ」

 と突然口を歪めた。

「態度を改めろ……か。確かに前から言ってたよね。でもね、そんなの僕から言わせれば」

 エントは立ち上がり、

「この2人を追い出せばいいのさ!」

 ミリアムとダールを順に指さしながら言い放った。

「はあ!?」

「はあ……」

 ミリアムとダールはそれぞれ反応する。

「もともと、僕とアルテナだけで十分だったのさ。今までもこれからもね! 僕の付与魔術がなきゃどうにもできない雑魚なんかに頼らなくってもね!」

「! だから──」

 そういう態度を改めろと言ってるのに──。アルテナは思った。

「(やはりわかってくれないのか……)」

 アルテナはこれまで数度、エントに対して、今しているような注意をしてきたことを思い出していた。そしてそのたびに、生返事をされたりあいまいに言い返されたり適当に流されたりしてきたことを。

 バンッ!

 大きな音がして、アルテナはびくっとして音のほうを見る。ミリアムが強くテーブルを叩きつつ立ち上がっていた。その顔は怒りに歪んでいる。

「雑魚、ねえ」

 雑魚呼ばわりされれば怒るのも当然だ。しかしミリアムは魔力まで高めはじめ、まるで臨戦態勢だ。他3名の顔色が変わる。

「自分に付与魔術かけられない雑魚には言われたくないわ……。アンタ守ってくれる人がいないと、アタシと1対1で戦ったらボロ負けするわけだけど……試してみる?」

 ミリアムの周囲、そして部屋の気温が冷たくなっていく。ミリアムは氷結魔法を得意とする。

「氷漬けにしてやろうか……!」

 ダンジョンで敵と戦っているときと変わらぬ殺気と眼光。エントはたじろいだ。

「やめろ!」

 アルテナと、ダールが同時に叫び、アルテナはミリアムを、ダールはエントをおさえた。

「落ち着けよお前ら!」

 そう言ったのはダールだ。ダールは続ける。

「なあエントよ。アルテナの言ってることわかってやれよ。アルテナはリーダーとして、パーティの今後を考えて言ってるんだ。和を乱すやつがいたら、目指せるものも目指せなくなっちまう。シルバーは到達したが、この先、ゴールド、プラチナ、ダイヤと目標はまだ遠いしでかいんだ。これからは俺やミリアムだけじゃなく、メンバーの増員だってやっていかなきゃならんだろう。そのときにエント。お前がそういう態度をとり続けていたら、メンバーが定着しないだろう? そしたらアルテナとお前の夢だってなかなか叶えられないだろう」

 年長者らしい落ち着きで、エントを諭すダール。しかしエントは聞き入れない。

「増員も、お前たちも必要ない! 僕とアルテナだけで十分なんだ!」

 ダールを睨みつけるエント。なにが彼をそこまで憎悪に駆り立てるのか。まるで親の仇でも見るような目つきだ。

「エント……」

 そんな彼を見て、残念そうな顔をするアルテナ。半ばなにかを諦めたかのような表情でもある。

 はぁ、と息をついてミリアムが言う。魔力と殺気はおさまっている。

「こうなったら、アルテナ、どっちを取るかじゃない? もう。前から言ってきたけど、こいつの態度が直るか、こいつが出ていくかしないなら、アタシのほうが出ていく」

 ミリアムはアルテナを見て言った。ミリアムの言葉に、先に反応したのはエントだった。

「どっちを取るかだって……? そんなの、僕に決まってるよね、アルテナ?」

 縋るように言うエント。

「ずっと一緒だったじゃないか……それに、2人で一緒に冒険者になって、2人で世界一の冒険者になるのが僕らの夢だったじゃないか」

 ゆっくりアルテナに近づきながら言うエント。エントは両腕をアルテナの両肩に伸ばす。しかしアルテナはそれを拒絶した。エントの顔は絶望に染まる。

「エント……今のお前とでは、その夢を追うのは、無理だ……」

 斜め左下に顔を向けて言うアルテナ。しかしすぐに顔をあげて、次の言葉はエントの目を見て言った。

「出て行ってくれ」

 追放宣告。

 アルテナはエントの目から目線を離さない。決意と覚悟をその瞳に宿している。エントは目を逸らした。

「……っ。わかったよ……!」

 エントは拳を握りしめ、わなわなと震えながら声を絞り出した。そして顔をあげて叫んだ。

「僕なんかもういらないって言うんだな! シルバーにあがったと思ったらこれかよ!」

 そんなことは言ってない──3人ともそう思った。

「こんなところこっちから出て行ってやるよ!」

 エントは部屋の戸のほうへ行き、乱暴に開け、退出ざま振り返り、

「後悔しても知らないからな!」

 と捨て台詞を吐くと、乱暴に戸を閉めた。その後、隣の部屋の戸を乱暴に開ける音がし、どたどたと物音が鳴り、乱暴に戸を閉める音が聞こえ、ずかずかと乱暴に歩く音が聞こえ、それが小さくなっていった。

 その間、部屋に残った3人は、疲労感や呆れを表情に滲ませつつ、立ったままお互いの顔を見合わせていた。

「……座ろうか」

 物音がしなくなってから、アルテナはそう言って2人を促した。全員着席する。

 アルテナは話し出そうとしたが、まずため息が出てきてしまい、右手を額に当てた。その様子を見て、ダールが口を開く。

「言いづらいことを言わせちまって、悪かったな」

 アルテナは応える。

「ああ…いや、これもリーダーの役目だ。ここのところのエントの態度を見ていたら、これ以上2人に迷惑をかけるわけにもいかなかったし……さっきダールが言ってくれたように、これからのことを考えると今のエントは……」

 邪魔。いやしかし、追放をしたかったわけじゃない。態度を改めてもらえれば解決していたはずだ。しかし、本人にそのつもりがなかったのなら、結局は邪魔だったことに変わりはなく……。

 幼いころから一緒で、冒険者になってからも自分のことを一番に考えてくれていたエントのことを、邪魔、と表現するのは憚られた。

「昔はあんなじゃなかったのにな……」

 脳裏には、いつも自分の後ろにくっついて、自分を慕うエントの姿。

「まあでもしかたないでしょ。正直、会議始まる前から、どっちかが出てくしかないだろうなって思ってたし、アタシは自分が出ていくことだって覚悟してたからね」

 そう言ったのはミリアムだ。ダールも頷く。

「確かにな。わりーけど、態度を直せっつったところで、はいわかりましたそうします! なんてなるわけないとは思ってたよ」

 ダールは、いちおう自分からもエントに軽く苦言を呈したときのことを思い出していた。

──俺は別にいいんだけどよ、ミリアムを邪険にするのやめてやれよ。パーティの空気ってもんをもうちっと考えて──

──うるさいな。ほっといてくれよ──

 聞く耳を持たないエント。

 ダールからしてもミリアムからしても、エントがアルテナを好きすぎるあまりに、自分らが邪魔なんだろう、というのはわかっていた。だからこそ、こいつの態度を是正させるのは無理だろうな、とも。

 そのとき、アルテナは両手で自分の頬を叩いた。

「こうなったからにはしかたないな! 3人になってしまったが、これからどうするか、改めて会議といくか!」

 殊更明るい声を出すアルテナ。2人は暗くなっていた顔をいくらかでも明るくし、頷いた。

「それだが、実際のところ戦力的にはエントが抜けたのは痛いよな。あいつの付与魔術が優れてたのは事実だし、シルバーへのスピード昇格はあいつのおかげでもあったと思うぜ」

 ダールが言った。ミリアムも同意する。

「確かにね。アタシの魔法の力もかなりあがってたし……まあ、精神的には常にデバフかけられてたけど」

 よほど鬱憤が溜まっていたのか、嫌味を言うミリアム。

 アルテナが話し出す。

「せっかくシルバーにあがったばかりだが、私たち3人だけでは正直、ランク維持も難しいと思う。私たち自身がレベルアップすることも必要だが……」

「メンバー補充か」

「ああ。どちらにしろ、増員は考えていたからな」

「考えていたってことは、アテがあるのか?」

「ああ……ドラゴンウィングのフレイアだ」

 アルテナの言葉に、驚きを示す2人。

「……って、あの暴竜フレイア!?」

 フレイアとは、ドラゴンウィングというシルバーランク冒険者パーティで、エースアタッカーだった竜人族の娘だ。

「ああ。最近、パーティを抜けて、今はソロらしいんだ。加入してくれれば戦力アップのチャンスだと思う」

「それはそうだが、あいつの評判を知らないわけじゃないだろ?」

 粗野で乱暴。それがダールの言う、あいつの評判、だ。個人ランクもシルバーのフレイアだが、実力だけ見るならゴールド以上と言われている。それでもゴールドにあがれない理由は、超自己中心、独断専行当たり前で、他者との連携が取れないという点に尽きる。パーティメンバーに配慮せずに大暴れするように戦う彼女を称して、暴竜の二つ名がついた。

「増員は賛成だけど、フレイアにするっていうなら、正直アタシは反対。性格に難ありってことで、さっき一人追放したばっかりなのに」

 ミリアムは言った。もっともな意見だろう。

「2人の心配はよくわかっている。実を言うと私も同じ心配をしている。ただ、構想だけ考えると、フレイアが入ってくれれば、私とフレイアの前衛2枚になるから、ダールとミリアムの危険を減らせると思うんだ」

 アルテナは説明した。今までのサンシャインは、ダールが前衛的な動きもしていてくれたものの、純粋な前衛職がアルテナひとりだったために、後衛の防御がいささか弱い。アルテナはそう感じていた。

「(そこにエントの付与魔術もあれば、最高だったんだが……)」

 アルテナの構想は、エント込みで考えたものでもあった。優れた付与魔術を使えていても、自分を強化することはできないエントの守りを考えることは必須であり、そのための前衛強化構想でもあった。

 しかしエントはもういない。半ば自分の決断で追放したかたちとなった。とはいえ、今後を見据えていく上で、前衛およびパーティー全体を強化していくことは必要であり、そのためのメンバー増員案であった。

「考えがあるってんなら、俺はそれを尊重する」

 ダールが言った。

「はあ。また毎日のようにイライラさせられるようなやつだったらイヤだからね」

 ミリアムも、不安を表に出しつつ、承諾した。

「よし、じゃあ今日は休んで、明日以降フレイアのスカウトに行こう」

 

 翌日、ギルドに赴いた3名。まずアルテナは、エントの除名届を出した。

「えっ? 除名ですか?」

 受付嬢は驚き困惑した。順調にシルバー昇格を果たしたばかりのパーティが、翌日にメンバーの除名をすると言ってきたのだから無理もない。

「あ、ああ。事情があってな」

「……パーティ内の事情にまで私たち職員は関与できませんが、昇格後まもなくで、シルバーでの活動実績もありませんから、今後の活動内容次第では、降格させられやすくなってしまうと思います。お気を付けください」

「ああ。承知している」

 死亡したり負傷したりしたわけでもない、常識からすると不自然なタイミングでの除名。パーティに何かしらの問題ありと疑われることは、パーティランクの査定に不利になる。

 ギルドに依頼を持ってくる顧客にとって、どうせ同じ料金を支払うのならば、当然、良いパーティに受けてほしい。成功確率が高いパーティが人気になるのはもちろんのこと、依頼主とのコミュニケーションや、クエスト外の動きもパーティの評判に関わる。そしてそれは、ギルド全体の信用にも関わる。仕事上のトラブルではなくても、何かしらの問題を抱えているパーティというのは、ギルドにとっては懸念事項になってしまうのだ。

 例えば、3角関係を抱えたパーティがクエスト中のダンジョン内で痴話喧嘩を起こし、そのためにクエスト失敗で依頼主激怒。ということもあり、ギルドとしては、直接踏み込めないにしても、所属冒険者の内情は気にかかるところであった。

 そして、アルテナも、世界一の冒険者パーティを目指すうえで、そういったギルド側の事情や都合も鑑みる必要性をわかっていたからこそ、幼馴染で優秀なエントのことを、このままの状態でパーティに入れておくことは将来的にプラスにならないと判断し、結果的に追放せねばならなかった。

「増員などはお考えですか? 失礼ですが、昇格時は4名でしたので、3名でシルバーのクエストを受けるのは危険だと思いますが」

 受付嬢が質問する。

「ああ。今日はそのことで相談……というか、フレイアを勧誘しようと思ってるんだが、彼女が今どこにいるかわかるか?」

「えっ。フレイア、さん?」

 受付嬢は、昨日のダールとミリアムと同じような顔をした。暴竜フレイアは有名人だ。

「えっと、お待ちくださいね……フレイアさんでしたら、現在はクエストを受注していないので、今の時間でしたら、食事場にいると思います」

 受付嬢は進行中クエストのファイルを確認しつつ言った。

「もしいなかったらすみません。そのときは掲示板に伝言を残してください。フレイアさんがこちらにいらっしゃったら、私からも伝えておきます」

「わかった。ありがとう」

 そういうわけで、サンシャイン一行はギルドを後にし、食事場へ向かった。

「フレイアさんを勧誘ですか……大丈夫でしょうか」

 一行が離れたあと、受付嬢は独り言ちた。

 

「入ってやってもいいぜ。俺と手合わせして俺に勝てたらな!」

 受付嬢の心配通り、一筋縄ではいかなかった。

 冒険者が頻繁に利用数する食事場に、受付嬢が言っていた通り、フレイアはいた。

肉料理を豪快に貪り食っている。いちおう食器は使っているものの、今にも手づかみしそうな勢いだ。傍らには空の皿が積み重なっており、同じ肉料理をすでに何枚も平らげたらしい。

 他の食事している連中と比べて明らかに異様な食べっぷりに、食事場に入るなり、それがフレイアだとわかったサンシャイン一行。3人はフレイアに近づいた。

「フレイアだな? 私はサンシャインのアルテナという者だ」

「お? おめーのことは知ってるぜ。銀麗のアルテナだったよな。シルバーにあがったんだって?」

 アルテナも負けじと有名人である。

「ああ。その通りだ。で、あなたに話があるんだ。食事が済んだら時間をとれないか?」

「話聞くだけならこのままでいいぜ。なんだ? 俺と手合わせでもしたいってのか? それなら喜んで受けて立つぜ!」

 力こぶを作ってにかっと笑うフレイア。その手には大きな肉が刺さったフォークが握られたままだ。そのまま肉を口に運び、ぶちぶちと肉を食いちぎり咀嚼する。そしてその食いちぎった肉の残りの部分をアルテナに向け、

「おめーも食うか? うめえぞ」

 などと言ってくる。粗野で乱暴、との評判が流れるのも納得の振舞である。ミリアムなどはすでに少々げんなりしたような表情になっている。

 アルテナは肉は断り、言った。

「単刀直入に言う。うちのパーティに入ってくれないか?」

 フレイアはごくりと肉を飲み込んだ。

「なるほど、勧誘ってわけか」

 そう言うと、ほとんど考えるでもなく、すぐ言葉を続けた。

「入ってやってもいいぜ。俺と手合わせして俺に勝てたらな!」

 さらに続ける。

「俺は、俺が認められるくらい強いやつとしか組みたくねえ。前いたとこでは、俺より弱っちい奴らが偉そうにしてやがってな。言うこと聞けないならやめろとか言ってくるもんだから、やめてやった。もうそんなめんどくせーのはイヤだからな。俺を入れたいって言うなら、まずはそっちが強えってところを見せてもらわねえとな!」

 言うこと聞けないならやめろ、つい昨日、同じような話をして、1人追放したばかりのサンシャイン一行は、胸が痛む思いがすると同時に、抱いていた不安要素が事実なのではと思い始めもした。

「(やっぱりこいつとんでもない地雷なんじゃ……)」

 ミリアムはそう思った。

 しかしアルテナはフレイアの申し出を受け入れた。

「わかった。手合わせをお願いしよう」

 ミリアムは驚き、小声でアルテナに言った。

「ちょっとアルテナいいの? こんなやつ入れたらまた面倒なことになる」

「勝てたら従うと言ってくれてるんだから、かえってわかりやすいだろう。それに、私が勝てるとは限らない」

 アルテナも小声で応える。

「それと、エントが抜けたからこれからは付与魔術なしでやっていかなきゃならない。クエストに出る前に、付与魔術なしの戦闘をするいい機会だ」

 そのアルテナの話に、ダールは、手合わせだったら自分とできるだろう、と思った。が、どうもやけにフレイアを加入したがっているというか、フレイアと手合わせをしたがっているようなアルテナの態度に、らしくなさのようなものを感じ、それがかえってなにか考えがあってのことのような気がして、口をはさむのはやめておいた。

「なーにごしょごしょ喋ってんだよ!? やるならやろうぜ!」

 フレイアは立ち上がり、残りの肉を一気に頬張った。

 

 場所を変えて、街はずれの広場。

ここはいちおうギルド管理の、冒険者用トレーニング場となっている。が、単に整地しただけと言えばそれだけの場所である。端のほうに申し訳程度に弓矢の的があったり、建築素材の廃材の材木や石ころなどが置かれていたりする。試し切りをしたり魔法の標的にしたりと一応の需要はある。雨の日は不便なので、屋内トレーニング場が欲しいとの声はあるが、それは町とギルドの財政にかかっており、つまり冒険者の働き次第でもある。

対峙するアルテナとフレイア、それを見守るミリアムとダール。

アルテナはトレーニング用の木剣と木の盾を装備している。対するフレイアは身一つで武器は持っていない。

「別に真剣を使ってもいいんだぜ。 殺す気でかかってこいよ」

「勧誘しに来たのに殺してしまっては元も子もないだろう」

「へっ。その気もなくて俺に勝てんのかよ! ……まあいいや。おい、あんたら。お姫様がやばくなったらいちおう止めにこいよな。俺は多分手加減なんてできないんでね」

「大した自信だな。止めてもらうのはそっちかも知れないぞ?」

「あんたがそんだけ強いってところを見せてくれよな」

 お互い挑発しあい、戦闘意欲を高めている。

「それじゃあ号令はかけさせてもらうぞ」

 号令役を頼まれていたダールが右手をあげる。

「3、2、1、はじめ!」

 号令とともに右手を振り下ろす。

 同時に、フレイアはアルテナに向かって真正面から突っ込んでいった。しかしそれはとてつもない速さで、瞬時に2人の間合いが詰まる。

「(はや……!)」

 考える間もなく距離を詰められたアルテナは、咄嗟に盾を構えた。すでに繰り出されていたフレイアのパンチはその盾に命中し、アルテナへのダメージを防いだ。

 が、その一撃でアルテナの左腕は大きく弾かれ、体勢も大きく崩される。フレイアは繰り出した右拳をすでに引いており、次の一撃を撃ち出す体勢だ。

 左腕の盾の防御は間に合わない。フレイアの右拳はアルテナの左頬に命中した。

 アルテナは体ごと吹き飛び、受け身もとれずに地面に着地した。

 ミリアムとダールは愕然とし、次に、フレイアがとどめを刺さんとアルテナにとびかかることを想像し、止めに入ろうとアルテナの方へ駆け出した。が、意外にもフレイアは、アルテナへ一撃を見舞ったその場から動かなかった。その代わりに、口を開いた。

「おい。てんでダメじゃねーか。かろうじて反応くらいはしてたみてーだが、俺の動きに全くついてこれてねえ。銀麗のアルテナさんとやらはこんなもんなのか?」

 仰向けに倒れたアルテナは、握りしめたままの左手の盾から手を離し、倒れたまま左手を頬に当てた。

「つっ……くっ……」

 どうにか起き上がろうとするが、よほど効いたのか、動きが緩慢だ。ダールとミリアムが駆け寄る。

「大丈夫か?」

「あ、ああ」

 2人はアルテナが起きるのを手伝おうとするが、アルテナは手ぶりでそれを断り、なんとか自分で上半身を起こした。

「最近何かと評判のあんたとなら、楽しめると思ったんだが、とんだ期待はずれだな」

 フレイアはアルテナを見下しながら言った。アルテナは殴られた左頬を痛がりながら応えた。

「ああ……これが今の私の実力だ。いや、実力、と言えば前からこんなものだということか」

 アルテナは、エントの付与魔術のことを説明した。

「私の評判の強さは、付与魔術で身体強化してもらってのものなんだ」

 その言葉を聞き、フレイアは両手を広げて肩をすくめた。

「やれやれ。そんなことか。がっかりだぜ。勝負は俺の勝ちだし、今何度やっても俺に勝てないのはあんたももうわかってるだろ。つーわけでパーティ入りの話はナシだな」

 そう言って、くるりと踵を返し、立ち去ろうとする。

「じゃーな」

 背中を向けたまま歩き出した。

「待ってくれ!」

 アルテナは立ち上がり、フレイアを呼び止めた。立ち上がりはしたが、先ほどの殴打のダメージが足にきているのか、かすかに下半身が震えている。アルテナの傍らでしゃがんでいたダールとミリアムも立ち上がる。

「あん?」

 面倒くさそうに振り返るフレイア。

「もう一度……1か月後にもう一度、手合わせをしてくれないか?」

 アルテナは言った。ダールとミリアムは横からアルテナの顔を見る。アルテナはまっすぐフレイアを見ている。

「1か月、鍛えに鍛えて、あなたに勝ってみせる。そうしたら、私のパーティに入ってくれ」

 フレイアは失笑する。

「1か月後に手合わせってのは別にいいけどよ……はっ。たった1か月鍛えたくらいで、あんたが俺に勝てるなんて思えないね」

「ああ、確かに普通の鍛え方じゃ無理かもしれない。だから! フレイア、これはお願いだ。私を鍛えてくれ!」

 アルテナの言葉に、3人は驚いた顔をする。

「はあ!? なに言ってんだおめー!?」

 フレイアは呆れた様子で言った。アルテナは頭を下げ、

「頼む!」

 さらにお願いをする。

「俺に勝ちたいから、俺に鍛えてほしいって、言ってることおかしくねえか?」

 もっともなことを言うフレイア。

「わかってる! 図々しいってことも承知している! それでも、あなたに鍛えてもらえば、最短で、今より強くなれると思ったんだ!」

 頭を下げたまま、大きな声で誠意を見せようとするアルテナ。

「鍛えてくれって言われてもな……俺は弟子を取ったこともないし、誰かに教えたりしたこともないし、俺になにをしてほしいんだよ」

「できれば毎日! 組手をしてほしい。その他にも、指示があればなんでもやる。だから頼む……お願いします! 師匠!」

 アルテナは頭をあげ、フレイアに詰め寄って訴える。師匠、との言葉が効いたのか、フレイアは少し照れたような態度だ。

「お、俺だって暇じゃないんだ。毎日っつったって、金を稼いでこなきゃならねえ。あんたにかまけてる間の収入はどうするんだよ」

「それはもちろん、私が報酬として支払う。そうだ、私が依頼主で、私を鍛錬するクエストと思ってもらってもかまわない。私と1か月組手をするクエストで、報酬は……50でどうだ?」

 アルテナの提案に、先に反応したのはダールとミリアムだ。

「ちょっ……、50支払うって、どういうつもり?」

「私の貯金から出す」

「お前それ、パーティ運営や将来のためにって言って、頑張って貯めてた金じゃないか」

「ああ。それを今使うときがきたんだ」

 驚きを通り越して呆れる2人。アルテナは再びフレイアの方に向き直り、

「頼みます師匠! 不出来な弟子かとは思いますが、どうかひと月だけ、お付き合いいただけないでしょうか!」

 と熱いラブコールを送りつつ、再び頭を下げる。

 ただならぬアルテナの熱意にうたれて、納得できないままダールとミリアムの2人も頭を下げる。

 その3人を前にして、フレイアはたじろぎ、

「ああ~わかったわかった! 1か月組手してやればいいんだな? 言っとくけど容赦しないからな、覚悟しとけよ?」

 と言った。どことなく上気しているようである。

「ありがとうございます! 師匠!」

 アルテナは笑みを浮かべた。

「ったく、こんなこと言ってくるやつ初めてだぜ」

 フレイアはぼやきながら、頭を掻いた。

 アルテナに釣られてともに頭を下げたダールとミリアムは、しかしやはり納得はいかない。

「おい、いいのかよそれで!?」

「サンシャインとしてのは活動はどうするつもり!?」

 当然の詰問をする2人。

「勝手なことをしてすまない。だけど、私個人としてもサンシャインとしても、エントが抜けた今、個々のレベルアップが不可欠だと思ったんだ」

 しおらしく答えるアルテナ。2人はなんとなく察するところがあり、何かを言いかけたがやめた。

 フレイアが話しかける。

「それじゃあ、明日またここで……」

「いや! 今から! 頼む……頼みます師匠!」

 フレイアの言葉を遮ったアルテナの言葉に、また3人は驚いた。

「そんな腫れた顔で言われてもな……」

 思わずフレイアは言った。アルテナの顔は、さきほどのフレイアの殴打によって赤く腫れていた。

「そ、そんなにか? ダール、ちょっと頼む」

 アルテナはダールのほうを向いた。ダールは呆れつつ、アルテナの左頬に手をかざし、治癒魔法を使った。アルテナの顔の腫れが引いていく。

「(ったく、治癒魔法だってタダじゃねえんだぞ)」

 治癒魔法は、ケガを治すが、体力や疲労を回復させるものではないし、治癒魔法を使った者の魔力は当然消費させる。特に、治癒される側というのは、ケガを急速に治す分、どっと疲れる感じ、がするものだ。

 ダールはどちらかといえば自分よりアルテナの心配をしていた。

 そんな心配をしつつも、もとの綺麗な顔に戻ったアルテナ。

「では改めて、お願いします! 師匠!」

 好奇心に湧いた幼い子供のようなキラキラした目で、構えをとるアルテナ。そんなアルテナを見てフレイアは、また頭を掻きながら、

「指示があればなんでも聞くと言ってたな……? それじゃあ最初の指示だ! その敬語と師匠呼びをやめろ!」

 と言い、アルテナに指をさす。

「くすぐったくてしょーがねえ。普通の言葉遣いと、俺のことは名前でもお前でもいいから、師匠とか変な呼び方すんな」

「む、そ、そうか。それでは、フレイア。よろしく頼む」

「ああ。いくぜ」

 こうしてアルテナの修行がはじまった。

 

 それからしばらくして——

 仰向けに倒れこみ、大きく息を切らすアルテナ。それを、腰に手を当て見下ろすフレイア。フレイアもいくらか息を切らしている。

「はあ。しつこいやつだなあんたも。今日はこのへんにしようぜ」

 そうフレイアは言うが、アルテナは痛んだ体をなおも起こそうとしながら、

「まだ、まだ……!」

 と言うのだった。

「もうやめとけって。これ以上やったらホントに死んじまうぞ」

 フレイアは、まだ、と言うアルテナの言葉が、はったりではないとひしひしと感じていた。

「おい! 師匠からの命令だ! 今日の特訓はこれで終わり! メシにするぞメシに!」

 フレイアはアルテナを指さしてそう言った。

「はは……師匠と呼ぶなって、自分で……」

「うるさい! 戦ったら、メシを食う! これが強くなる秘訣だ!」

 竜人族らしい明快さのフレイア。

 2人が組手をしている間、暇を持て余しているのも何なので、広場でそれぞれ自主トレーニングをしていたダールとミリアム。疲労で足元おぼつかないアルテナを介抱しつつ、4人で食事場へ向かう。

 食事場に着くなり、フレイアは肉料理をたらふく注文する。今日はこれで2回目なのだが、相変わらず豪快な食べっぷりを見せつける。

「今日はいい運動したから腹減っちまったぜ! アルテナも食え食え!」

 そう言って大きなステーキをアルテナに寄越す。疲労困憊のアルテナは、食欲も今一つといった様子だが、

「動いて、鍛えて、肉を食う! これが竜人のスタイルよ! おめーも俺に鍛えてほしいって言うなら、それに従えよな!」

 というフレイアの言葉に、

「うん。そうだな。食べて力をつけないとな!」

 アルテナはフォークでステーキをぶっ刺して持ち上げると、かじりついた。

「そうだそうだ! おめーはちょっと細すぎるからな!」

「食べ方まで真似しなくっていい」

 フレイアは笑った。ミリアムは呆れた様子だ。ダールも苦笑いをしつつ、なにか思案顔だ。

 食事が終わり、4人は食事場を出た。

「ふーっ、食った食った! じゃあ今日はもう休めよ! 動いて、食って、寝る! これが強くなる秘訣だからな!」

 取ってつけたように言うフレイア。そこで、フレイアと他3人は別れた。

 サンシャインの3人は宿へ向かう。その道すがら、

「アルテナ。こうなるとわかってて、フレイアに声をかけたのか?」

 ダールは、アルテナの様子を見ながら推測していたことをアルテナに聞いた。

「あ、ああ。思ってた以上に思った通りになってしまったが……」

 アルテナは、エントの付与魔術なしではフレイアに手も足も出ないと分かっていたこと、フレイアに付与魔術なしで勝てないようでは冒険者としての先がないこと、竜人族のまっすぐな気質からして頼み込めば無茶なお願いも聞いてくれるのではないかと思っていたこと。などを説明した。

「勝手なことをしてすまない。だが、これからは個々のレベルアップが不可欠なはずだ。1か月で私は必ずフレイアに追いついて見せる。どうか2人も、この期間にそれぞれ腕を磨いてほしい」

 アルテナは歩いている2人の前に出て振り返り、頭を下げた。

「迷惑をかける……もし、やり方に賛同できないなら……」

 抜けてもらってかまわない。しかし、抜けてほしいわけではないアルテナは、言い淀んだ。

 少し間があった。アルテナはその間頭を下げたままだ。

「わかったぜアルテナ。頭をあげろよ」

 そう言ったのはダールだ。

「お前に付き合うぜ。レベルアップが必要なのは確かだしな。1か月ごあの竜娘をばしっと倒してくれよな。そんとき2人に置いて行かれていないように俺も頑張るぜ」

「仮にうまくいったとして、それでもそのときはアタシの魔法が必要でしょ?」

 続けてミリアムも言う。2人とも微笑んでいる。アルテナも笑みを浮かべた。

「ありがとう2人とも!」

 そして3人は宿に戻り、休息についた。

 

 翌朝、ミリアムは目覚めると、アルテナが部屋にいないことに気付いた。寝坊したわけでもなく、いつもと同じ時間に起きている。

 どこに言ったんだろう。そう思っていると、部屋の戸が開き、アルテナが入ってきた。

「おはよう」

 笑顔でそう言ったアルテナの顔は、うっすら浮かんだ汗で光っている。ミリアムは思わず目を見開いた。

——きれい——

 ミリアムは寝起き早々体が熱くなるのを感じながら、アルテナに見惚れた。

「どうした? 寝ぼけてるのか?」

 汗をぬぐいながら、アルテナは笑った。それでミリアムは正気に戻り、アルテナが自分の惚けた顔の理由を勘違いしてくれていてほっとした。

「朝早くから、なにしてたの?」

「ちょっと走ってた。少しでもトレーニングしないとな」

 ミリアムは驚いた。昨日のフレイアとの特訓はそう楽なものではなかったはず。現に昨夜は、体をさっと洗った後はすぐに眠りに落ちるほど疲弊していた。睡眠時間が短いわけではなかろうが、疲れが残ってはしないのだろうか。

「そんなに張り切って大丈夫なの?」

 ミリアムは単純に、オーバーワークの心配をした。

「大丈夫!」

 アルテナは拳を握って笑って見せた。ミリアムはそれ以上は追及しなかったが、心配がなくなったとは言えなかった。

 身支度をして、隣部屋のダールと合流し、朝食をとって出かける。行先は昨日と同じ広場だ。

 広場でフレイアと再会する。

「今日もよろしく頼む」

 アルテナはやる気満々に、フレイアと組手をしようとする。しかしフレイアは両手を胸の前で広げた。

「待て待て。今日はクエストこなすぞ。ギルドに行こうぜ」

 フレイアは言った。

「俺なりに考えたんだけどな。実戦も大事だ。あんたらシルバーランクにあがったばっかで、シルバーの依頼を受けたことないだろ?」

 アルテナら3人は頷く。

「それに今まで使ってた付与魔術ってのがこれからはないわけだ。そしたら、シルバーランクモンスターと戦うってのもいい経験になると思うぜ」

「なるほど……」

「ついでに金も稼げるしな」

 アルテナら3人は感心する。それこそ、脳みそが筋肉でできているのかというようなイメージを抱いていた3人だが、意外と考えている。

「なーんか、俺のことをバカだと思ってねえか?」

 フレイアが見透かしたように言ってきたので、3人は慌てた。

「そんなことないそんなことない!」

 顔の前でぱたぱたと手を振る3人。

 フレイアはやや釈然としない顔をしつつも、4人連れだってギルドへ赴いた。

「あ、サンシャインの皆さんおはようございます……って、フレイアさん!?」

 受付嬢はサンシャインの現メンバー3人とともにいるフレイアを見て驚いた。

「本当に加入したんですか!? もう!?」

 昨日、フレイアを勧誘したいという話をして、次にはもう連れてきたのだから驚くのも無理なかった。

「まだ加入してねーよ」

 笑いながら言うフレイア。

「ああ。彼女はゲストだ。それで、この4人でシルバーランクの依頼を受けたいんだが」

 パーティに正式加入せずとも、ゲスト扱いで帯同したりしてもらったりというのは決して珍しいことではない。

「な、なるほどです。えと、フレイアさんはシルバーランクでの活動実績は十分ですし、大丈夫ですね」

 事務的な確認をし、依頼書を開く受付嬢。

「モンスター討伐依頼で頼むぜ」

 フレイアはそう指定した。アルテナは振り返って後ろにいるフレイアの顔を見た。フレイアはなにか意図ありげに笑った。

「それで頼む」

 アルテナも同意した。

「わかりました。それでは、西の森に現れたオークの討伐をお願いできますか?」

 そう言って受付嬢は1枚の依頼書を取り出した。

 依頼書によると、西の農村部の家畜が盗まれる事件が発生し、痕跡からするとオークの仕業で、西の森に巣くっていると思われるとのことだ。

「ちょうどいいな。それやろうぜ」

 フレイアは言った。その言葉を聞き、アルテナはダールとミリアムを見た。2人とも頷いた。

「了解だ。やらせてもらおう」

 アルテナ、もといサンシャインはクエストを受注した。

 フレイア以外の3人は、初のシルバーランククエスト、それもエントの付与魔術なしで、というところに、一抹の不安を感じていた。

 

 そして一行は、オークが巣くっているという洞窟に向かった。

 探索を始めてしばらくすると、複数のオークと遭遇した。

「5体か。それじゃあ、いくぜ!」

 フレイアがとびかかっていき、アルテナも続く。ダールは前衛2人のサポート、ミリアムは隙を見て魔法攻撃という分担だ。

「おらあ!」

 肉弾戦でオークを圧倒するフレイア。

 アルテナも負けじと攻撃をしかけようとする。が、

「ちんたらしてんなよ!」

 横取りされるように、アルテナの攻撃対象にフレイアの強烈な蹴りが入る。

 俊敏な動きで、重い攻撃をどんどん叩き込んでいくフレイア。

「(さすが、実質ゴールドランクと言われてるだけはある……)」

 いつでもサポートできるよう、前衛2人から一歩引いて戦況を見ているダール。フレイアの実力に感嘆する。一方、動きづらそうにしているアルテナの姿も目に映っていた。

「(わかっちゃいたが、付与魔術ありだったときとは全然動きが違う。全くキレがない)」

 アルテナ自身も、今までの自分とは違う、それこそ自分の体とは思えない体の反応に戸惑っていた。

「(フレイアとの手合わせのときからわかってはいた……が、実戦だとなおさら感じる)」

 例えば、振り下ろした剣が、頭の中ではもう敵に命中しているはずなのに、実際には思った半分くらいしか動いていなくて、結局回避されてしまう。というように、自分が頭で思っている動きが、自分の体で全く再現できない状態だった。

 後方にいるミリアムももどかしさを感じていた。

 魔力の集中に時間がかかりすぎる。今だ! と思ったタイミングで魔法を放てない。それに前で激しく動き回るフレイアを誤射してしまいそうで、タイミングをとること自体が難しい。

 サポート役のダールにしても、フレイアの動きについていける気がしていなかった。

 そして結局、5体のオークは全て、フレイアの攻撃によって倒されてしまった。

「まあこんなもんだろ」

 そう言ってぱんぱんと手を叩くフレイア。足元にはオークたちの亡骸が転がっている。

 クエスト成功なわけだが、フレイア以外の3人の表情は重い。

「とりあえず、依頼人とギルドに報告に行こうぜ」

 言葉の出ないアルテナの代わりにフレイアが場を仕切る。どちらがリーダーかわかったものではない。アルテナは悔しさに体を震わせた。

 

 報告を終わらせ、報酬を受け取った。

「ありがとうございました! さすが、サンシャインのみなさんとフレイアさんですね!」

 受付嬢はいっさいの悪気なく言ったが、3人は胸に棘が刺さる思いだった。

「よーし、それじゃあメシ食いに行こうぜ」

 美味しく食べられる気もしなかったが、3人はフレイアについて食事場に行った。

 そしてそこで、

「お前ら、今回のクエストで、どう思った?」

 食事もそこそこに、フレイアが言った。3人は、想定してない質問にきょとんとしてしまう。

「どう、とは……」

「いいから、そう聞かれて、思ったことを聞かせてくれよ」

 3人は顔を見合わせた。フレイアの質問の意図がいまいち読めない。しかし、結果的にほとんど1人に任せてクエストを終わらせてしまった後ろめたさがあり、何故? などと聞き返す気にはならなかった。

 まずアルテナが口を開く。

「わかってたことだが、付与魔術がなくて体が重かった。思っていた以上に。フレイアの動きにもついていけなくて、まるで役に立てなかった」

 次にダール。

「ついていけなかったのは俺も同じだ。サポート役のつもりが、突っ立って見てただけだ」

 そしてミリアム。

「魔法攻撃を狙ってはいたけど、狙いをつけたときには魔法を撃てるほど魔力を集中できてなくて……」

 3人の言葉を聞き、フレイアは腕を組んでうんうんと頷いた。

「今日のは、おめーらの実力の再確認だ。まあ色々あったんだろうとは思うが、今のおめーらは、正直とてもシルバーランクとはいえねー」

 要は、フレイアが3人を試したということなのだが、それについて文句も反論も言えなかった。

「でだ、もういっこ、聞きてえんだが、俺のことはどう思った? ……いや、もうちっと正確に言うか、俺の動きは邪魔だと思ったか?」

 また意外な質問をしてくるフレイア。

「俺のことを自分勝手で自己中だと思ったか?」

 さらにそう続けた。

「いや! いや! ただただ、実力の差を思い知るばかりで……」

 アルテナは否定して、軽く俯いた。他2人もおおむね同じ意見のようだ。

「そっか」

 フレイアは、少し間をおき、話し出した。

「……俺の前いたパーティな、そこもシルバーだったんだが、個々の実力はまあシルバーなりって感じで、シルバー安定だろうけどゴールドにはいけないだろうなって、そんくらいの連中だったんだ。向上心があるようでないようなやつらだったしな。で、まあ、俺はソロでいたときに誘われて加入したんだが」

 昔話をつらつらと語りだすフレイア。フレイアがそんな話をするなど思ってもみていなかった3人は、その話に聞き入る。

「今日みたいに、俺は俺でやりたいようにやってたわけよ。まあ当然、前衛でアタッカーとして加入したわけだしな。で、初めてのクエストを成功させたんだが、そうすると『自分勝手に動くな』『俺たちに合わせろ』『連携しろ』てなことを、ま~上から目線で言ってくるわけよ」

 なんとなく、容易に想像できるシーンだと思う3人。

「どう思うよ? 俺は、弱いほうに合わせろなんてどうかしてるって思ったね。いきなり合わせるのはできないとしても、そっちが合わせられるように頑張るべきじゃねーのか? 俺がお願いして入ったわけじゃなく、そっちが誘ってきて入ったんだしよ」

 その言葉で、なんとなく今回のクエストの意図を、3人は察した。

「いや、結局は、言い方が気に入らなかったって話かもしれねーんだが……上を目指すんじゃなくて、効率よくシルバーで稼ぐってスタンスが合わなくってよ……いや、そういうスタンスそのものを否定する気はないんだが……」

 色々話しながら、話の着地点がわからなくなりはじめているフレイア。

 話を聞きながら、サンシャインの3人は痛く感心をし、決め付けたり口にしたりしていたわけではないが、何も考えていない脳筋パワー系、というイメージを無意識に抱いていたことに罪悪感を覚えた。

「フレイア……色々考えてるんだな」

 それを言ったのはダールだ。フレイアは、自分語りをしたのが今更照れくさいのか、腕を組んで3人から目を逸らしながら、

「そりゃあ考えるさ! とにかく俺が言いたいのは、俺は強い奴と組みたいし、上に行って強い奴と戦いてえ! だから、パーティメンバーは俺が認めたやつじゃねえとイヤだし、俺が手加減しなくても連携とれる実力を持ってるやつがいい!」

 と言った。そして続ける。

「だから今日は、わりーがお前らを試させてもらった。で、はっきり言って、俺は俺を変える気はねーし、今日の実力差を見て、合わせろだなんだと言うなら、向上心を持てねーなら、俺の勧誘は考え直しな」

 フレイアは、まだ出会って2日目のアルテナ、そしてサンシャインのメンバーに対し、今後のことを見据えた考えを持っていた。

 勝負に勝てなかったら加入はしないと言っている態度とは矛盾している姿勢のような気はしたが、粗暴なイメージとは裏腹の思慮深さに、アルテナは感心を超えて感動に近いものを覚えた。

「フレイア……ありがとう」

 自然とその言葉が出た。礼を言われるなど思っていなかったフレイアは、さらに照れくさそうにする。

「お、俺は言いたいことを言っただけだぜ」

「私も、上を目指してる。目標は世界一の冒険者パーティだ。そのためにも、まずは私のことを認めさせてみせる」

 アルテナは力強く宣言した。自信に満ちた笑みを見せている。フレイアも同じように笑った。

「あんたが努力してる間に、俺も強くなるぜ?」

「それなら私は、2倍3倍の速度で強くなるさ」

「ちょっとあんたたち! アタシだって置いていかれやしないからね!」

「若い奴らについていくのは大変だが、頑張るしかねえか」

 ミリアムとダールも触発されたように言う。

「そんじゃあ、食って力をつけんぞ!」

 真面目な話し合いに、なんとなく手がつけられていなかった肉料理を、4人してがっついた。

 

第一章 完